人前で話す直前、手のひらに汗をかき、心臓の鼓動が早くなる。「うまく話さなければ」と思えば思うほど、頭が真っ白になってしまう。この緊張感、参加者の方に気づかれているのかも…
このような経験は、多くの人が一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

実は私自身も、人前で話すことが得意ではありませんでした。講師という立場でありながら、話す前の緊張度を10段階で表すと「8」程度。声が震え、足元が落ち着かず、呼吸も浅くなる状態を何度も経験してきました。準備をしていても、その場に立つと別人のように感覚が変わってしまう。そんな自分に対して、どこかコントロールできないもどかしさを感じていました。

 

緊張の正体は「状態」にある

では、なぜこのような状態が起きるのでしょうか。

人は「これから起こること」に対して不安を感じると、身体が先に反応します。失敗したらどうしよう、うまく話せなかったらどう思われるだろう。そうした思考が無意識に広がることで、身体は緊張状態に入り、呼吸は浅くなり、心拍数が上がり、結果として本来の力が発揮できなくなってしまいます。

つまり、問題は「話す技術」だけではなく、「状態」にあります。どれだけ内容を準備しても、どれだけ話し方を学んでも、自分の状態が整っていなければ、その力は十分に発揮されません。逆に言えば、状態さえ整えば、人は本来持っている力を自然に発揮できるようになります。 

状態を整える「アンカリング」

そこで有効なのが、「アンカリング」という方法です。

アンカリングとは、特定の感情や状態と、身体の動作や感覚を結びつけることで、意図的にその状態を呼び起こすスキルです。私たちは日常の中でも無意識にこれを体験しています。例えば、ある香りを嗅いだ瞬間に懐かしい記憶がよみがえったり、特定の音楽を聴くと当時の情景や感情が一気に浮かんでくることがあります。これらはすべて、感情と感覚が結びついた状態です。

この仕組みを意図的に活用することで、自分の状態を整えることができます。

具体的な方法は、とてもシンプル。人前で話してうまくいった直後や、「落ち着いて話せた」「自然体でいられた」と感じた瞬間に、その感覚をしっかり味わいながら、普段は触らない身体の一部を軽く押さえます。このとき大切なのは、その感情のピークをしっかり感じることです。その状態と動作を結びつけるように意識します。

これを何度か繰り返すことで、「良い状態」と「特定の動作」が結びついていきます。

私の場合は、右手の親指と人差し指の間にその感覚のスイッチをセットしています。そして本番で緊張を感じたときに同じ動作を行うと、不思議と気持ちが落ち着き、過度な緊張が和らぎます。実際に、話す前の緊張度は「8」から「5」程度まで下がり、話し始める頃には「4」程度の、ちょうど良い緊張感に変わるようになりました。 

自分の状態が、人間関係を変える

ここで重要なのは、緊張を「ゼロ」にすることではありません。適度な緊張は集中力を高め、パフォーマンスを引き上げる要素にもなります。問題は、過度な緊張によって自分の力が発揮できなくなることです。その状態を整えることができれば、人前で話すことに対する捉え方も大きく変わっていきます。

この「状態を整える」という視点は、人間関係にも深く関わっています。相手の反応や状況に振り回されるのではなく、自分自身の状態を整えることができる人は、自然と落ち着いたコミュニケーションができるようになります。結果として、相手との関係性も穏やかに、そして信頼感のあるものへと変わっていきます。

協会が推奨している関係性コンディショニングとは、まさにこうした「自分の状態を整えること」を土台にしています。外側の出来事をコントロールするのではなく、自分の内側の状態を整えることで、結果として現実の関係性が変わっていくという考え方です。 

小さな一歩が、安心のスイッチになる

人前で話すときの緊張も、その一つの入り口に過ぎません。

まずは日常の中で、「うまくいった瞬間」や「落ち着いている状態」に意識を向けてみてください。そしてその感覚を、自分なりの動作と結びつけてみる。その小さな積み重ねが、いざというときに自分を支える“安心のスイッチ”になります。

人は、自分が考えた通りの人間になっていきます。だからこそ、「できない自分」ではなく、「整えられる自分」に意識を向けること。その選択が、これからの自分のあり方を大きく変えていくはずです。

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投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/

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