職場での会話、家族とのすれ違い、SNSでのちょっとした誤解―― 私たちは日々、たくさんの“言葉”に囲まれて生きています。ふとした日常の中で、何気なく交わされる言葉―― 「みんなそう思っているよね」「私はいつもダメなんです」「どうせ無理に決まっている」これらの言葉には、実は私たちの“思考のクセ”が隠れています。そんなクセが、相手とのすれ違いや、自分自身への制限を生んでいるとしたら、どうでしょうか?
今回は、人間関係のストレスや誤解のもとになりやすい「一般化」「歪曲」「削除(省略)」という3つの心のフィルターについて解説しながら、特に日常的に現れやすい「一般化」に焦点を当てて考えてみたいと思います。

無意識の“翻訳機”がすれ違いを生む
私たちが目にする情報や、耳にした言葉は、常にそのまま受け取っているわけではありません。 人は膨大な情報の中から必要なものだけを選び取り、自分の経験や価値観に基づいて加工しながら「現実」を構築しています。まるで、自分専用の辞書を使って相手の言葉を訳しているようなもの。 その辞書に深く関わっているのが、次の3つのフィルター。
1. 削除(省略/Deletion)
- 現実に存在している情報の一部を“無意識に見落とす”こと。
- 私たちは常に膨大な情報に囲まれていますが、意識できるのはその一部だけ。注意が向かない情報は自然と“省略”される。
- 例:「今日は何もしてない」と思っていても、実際には洗濯や食事など、何かしら行動している。 → 無意識に“したこと”が削除されているため、何もしていないように感じている。
2. 歪曲(Distortion)
- 事実や出来事を、自分の思い込みや価値観でねじまげて解釈すること。
- 自分にとって都合のいいように、または不安な方向に変えてしまう傾向がある。
- 例:「部長が挨拶を返さなかった。きっと私を嫌っているのだ」 → 単に相手が忙しかったり、気づかなかっただけかもしれない。
3. 一般化(Generalization)
- 過去の一部の経験を元に、全体や未来にも当てはまると無意識に決めてしまうこと。
- 新しい可能性を自分で閉ざしてしまうリスクがある。
- 例:「前に失敗したから、私はこの仕事ができない人間だ」 → 一度の失敗が“自分の本質”のように感じてしまう。
これらのフィルターは、本来は脳が情報を効率よく処理するための仕組みですが、それが過剰に働くと、自分自身を狭め、他者との誤解を生んでしまうことにつながります。
「みんな言っている」は本当に“みんな”?
例えば、職場で数人がAさんの悪口を言っていたとします。それを別の人に伝えるとき、「みんなAさんのこと、悪く言っていたよ」と言ってしまうことはありませんか? 実際には2〜3人でも、「みんな」と言われると、聞いた側は「ほとんどの人がそうなんだ」と受け取ってしまいます。
同じように、SNSで2人から否定的なコメントをもらっただけで「ネットで叩かれている」と感じてしまう――これも典型的な一般化です。このように、少ない情報を全体のこととしてまとめてしまう思考のクセが「一般化」です。 便利な側面もありますが、誤解や偏見の温床になることも多いのです。
一般化された言葉に問いかける
一般化された言葉に出会ったとき、次のような問いかけによって、背景にある“思い込み”や“事実の範囲”を明らかにすることができます。
- 「私はいつもついてない」
- 一度もラッキーなことはなかった?
- 最近あった“ちょっといいこと”は何かある?
- 「私は人前で意見が言えない」
- どんな場面で言いにくく感じるの?
- 少人数なら話せることもある?
- 「この仕事は急いでね」
- いつまでに仕上げたらいいですか?
- “急ぎ”って、今日中という意味かな?
ポイントは、「事実」と「印象」をやさしく分けて聴くこと。 「揚げ足を取っている」と思われないように、相手の感情に寄り添いながら問いかけることで、会話は自然に深まります。
「なぜ?」よりも「どうすれば?」
「なぜ?」という問いかけは注意が必要です。 この言葉は、相手にとっては責められているように感じることがあります。代わりに、次のような質問を意識してみてください:
- 「どんなときにそう感じる?」
- 「どんな場面だと少し違うかも?」
- 「どうすれば、少しでも楽になると思う?」
“未来”や“可能性”に目を向けた問いかけは、対話を前向きにしてくれます。
小さな実践が大きな変化を生む
今日からできる、ちょっとした習慣として―― 相手の「いつも」「みんな」「絶対」などの言葉に気づいたら、やさしく問いかけてみてください。問いかけを通して、相手も自分も「本当にそうかな?」と立ち止まることができます。 その一瞬が、すれ違いを防ぎ、信頼を深めるきっかけになるはずです。こうした小さな気づきや問いかけが、日々の関係性をほんの少しずつ、でも確実に変えていきます。
おわりに
“心のフィルター”の存在に気づくだけでも、コミュニケーションは変わります。私たちが無意識に持っている「一般化」「歪曲」「削除(省略)」のクセを意識しながら、より丁寧に相手の言葉に耳を傾けてみましょう。あなたの問いかけが、誰かの心をほどくきっかけになるかもしれません。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
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