「これはハラスメントなのだろうか?」
職場でそんな戸惑いを感じたことはありませんか。
ハラスメントの問題は単純な白黒では語れないからこそ、私たち一人ひとりができることがあります。今回は、グレーゾーンに向き合う視点と、受け側を支える感情ケア・フォローアップの大切さをお伝えします。
職場ハラスメントの深刻な現状
近年、「パワハラ(パワーハラスメント)」や「セクハラ(セクシュアルハラスメント)」に関する相談件数は、右肩上がりで増加しています。厚生労働省の調査によると、職場で何らかのハラスメントを経験した人は約3割にのぼり、労働相談窓口への相談件数も過去10年間で倍増しました。こうした背景を受け、企業にはこれまで以上に厳正な対応が求められるようになっています。
一方で、現場では「これは本当にハラスメントなのか?」と判断に迷うケースも少なくありません。法律やガイドラインでは一定の定義がなされているものの、実際の職場では、受け手の感じ方や状況によって、白黒はっきりつかない「グレーゾーン」が多く存在するのが現実です。
ハラスメントが生まれる背景
職場の人間関係は、日々の何気ないコミュニケーションによって大きく左右されます。だからこそ、「自分の視点だけで決めつけない」という姿勢が、現代では一層重要になっています。
例えば、
- 挨拶をしたのに無視された
- 注意された言葉がきつく感じた
といった体験も、受け手のその時の心理状態や、相手の状況次第で大きく意味合いが変わります。
ある職場では、「上司に挨拶したのに無視された」と感じた方がいました。しかし、後に話を聞くと、上司は締め切りに追われていて単に気づかなかっただけでした。このように、一度立ち止まって相手の事情や心理を想像してみることが、不要な誤解を防ぐ第一歩となります。
ハラスメントを受けた側の心理と影響
ハラスメントを受けたと感じた人は、
- 「自分にも非があるのではないか」
- 「周囲に迷惑をかけてしまうのではないか」
といった自己否定や孤立感に陥りやすくなります。この心理的負担は、職場への信頼感を失わせるだけでなく、その人自身の自己肯定感や働く意欲にも深刻な影響を与えます。だからこそ、受け手が「一人で抱え込まない」ためのサポート体制が必要です。安心して話せる場があるだけで、心の負担は大きく変わります。
誤解を防ぎ、関係を修復する視点
感情は、とても繊細で移ろいやすいものです。一度ネガティブな感情が芽生えると、相手のすべての行動や言葉が否定的に映ってしまうことがあります。
だからこそ、
- 「なぜ相手はそう言ったのか?」
- 「もし自分が相手の立場だったらどう感じるだろう?」
と、想像することを習慣にすることが大切です。これは、相手を許すためだけでなく、自分自身を感情的なダメージから守るためにも、とても有効なアプローチ。そしてハラスメントの経験を冷静に乗り越え、自己肯定感を整えるためには、日常の中で意識して、次のような問いかけをしてみましょう。
- 「今、私ができていることは何だろう?」
- 「相手は私にどんな期待をしていたのだろう?」
- 「私が相手だったら、どのように伝えたかっただろう?」
こうした問いかけを重ねることで、被害感情に押しつぶされることなく、少しずつ心を柔らかく整えることができます。
継続的なフォローアップ
ハラスメント対策は、一度の研修や一時的な取り組みだけでは、十分とはいえません。感情のすれ違いや誤解は、時間をかけて修復していくものです。例えば、当協会では、研修後に月2回程度、オンラインや対面でのフォローアップの場を設け、現場での実際の経験や悩みを共有しあう仕組みを取り入れています。また、個別相談を随時受け付け、「不安を抱えたままにしない」体制を整えています。こうした継続的なサポートが、職場の空気を少しずつ変え、働く人一人ひとりの安心感につながります。
言葉に込める「温度」
先日、昔の職場の先輩と久しぶりに再会したとき、こんな話をしました。「昔は叱って伸ばすのが当たり前だったけど、今は伝え方にも気を配らないといけないね」と。確かに、かつては厳しい言葉が“成長のため”と考えられていました。しかし今は、伝え方の**「温度」や「優しさ」がより強く求められる時代になっています。
- 「ありがとう」
- 「お疲れさま」
- 「あなたの〇〇という行動がとても助かりました」
シンプルだけど具体的な言葉をこまめにかけること。それだけで、職場の空気はぐっとやわらかくなります。最後に、職場のハラスメントを防ぐために必要なのは、特別なスキルやテクニックだけではありません。日々の小さな言葉づかい、相手を思いやる想像力、自己肯定感を整える環境。その一つひとつの積み重ねが、「信頼と温かさにあふれた職場づくり」につながっていきます。私たち一人ひとりの行動が、誰かの心を守り、未来の職場文化を育んでいくことを、心から願っています。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/
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