母が認知症と診断されたのは、12年前のことでした。

心筋梗塞を乗り越えた直後だったこともあって、「またか」と運命を恨みました。けれど不思議なことに、嘆いている時間はそれほど長く続かなかったのです。ある朝、ふと頭に浮かんだ言葉がありました。

「今の自分にできることは何だろう」

開き直り、と言ってもいい瞬間でした。

そこから私は、できることとできないことを紙に書き出していきました。仕事の傍らで自分ができる介護のこと、専門家やヘルパーさんに任せたほうがいいこと。線を引いていく作業は、思っていたよりも自分の心を軽くしました。

後になって知ったことですが、これが「介護の共倒れ」を避ける唯一の方法でした。

抱え込む人が、頼れない二つの理由

このときの経験を、その後の自分の仕事や、コーチングで関わってきた方々の悩みに重ねてみると、ひとつ見えてきたことがあります。人が「ひとりで抱え込んでしまう」とき、他者に頼れない理由は大きく二種類に分かれるということ。

ひとつは、罪悪感型。 「自分が逃げているように感じる」「身内なのに人任せにするのは申し訳ない」── 介護や家庭の問題で人を頼れない人の多くは、この感覚に縛られています。

もうひとつは、自尊心型。 「能力不足を認めるようで悔しい」「相談したら負けな気がする」── 仕事やビジネスで抱え込む人の多くは、こちらに当てはまります。

同じ「頼れない」でも、奥にある感情はまったく別物です。厄介なのは、自分がどちらに縛られているかに気づかないまま、ただ「頼れない自分」を責め続けてしまうこと。これでは、出口が見えません。

抱え込みをほどく言葉の置き換え

行動を変えるには、思考の順序を変える必要があります。具体的には、自分を縛っている「言葉」を置き換えるのです。

抱え込みの種類縛っている思い込み置き換える言葉
罪悪感型人に任せる=見捨てる人に任せる=信頼する
自尊心型人に頼る=負ける人に頼る=戦力を増やす

たったこれだけのことですが、言葉を置き換えると、不思議と体が動き始めます。

「お金がない」「人脈がない」「時間がない」「技術がない」「知識がない」── こうした表面的な「できない理由」のほとんどは、実はこの二つの思い込みが姿を変えたものに過ぎません。根っこの言葉が変われば、解決策は自然と見つかります。

強さの定義を、書き換える

私が母の介護を通して学んだことは、結局のところシンプルでした。ひとりでやり切ることが、強さではない。 任せる相手を見つけられることが、本当の強さなのだ、と。

12年前の自分には見えていなかったこの景色を、今は当たり前のように受け入れられるようになりました。

今日の問いかけ

あなたが今、ひとりで抱え込んでいるものは何ですか。

そして、それを手放せないでいるのは「罪悪感」からでしょうか、それとも「自尊心」からでしょうか。

正体が見えると、出口の方向も見えてきます。 よければ一度、紙に書き出してみてください。

コラム目次へ

投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/