「ここが自分の居場所だ」と感じるのは、ふとした日常の中で訪れる瞬間です。例えば、仲の良い友人たちと過ごす穏やかな時間、一緒に笑ったり、何でもない話をしたりしているときに感じる安心感です。周囲に特別な飾り立てた言葉はなくても、自然体でいられるその空間は、まさに私にとっての居場所のひとつです。

私が「居場所」を初めて意識したのは、学生時代にさかのぼります。学校生活の中で、いつも他人の目を気にして、どこか無理をしている自分がいました。自分らしくいられないことが多く、心が休まることはほとんどありませんでした。しかし、放課後、部活に参加した時間だけは違っていました。ブラスバンドで各自が楽器のチューニングをし、みんな同じ目標に向かって練習したこと。そのとき、ここにいる自分に誇らしさを感じていました。ただその場を共有できることの喜びを感じていました。それは他のどの場所でも感じられなかった特別なものでした。

家庭の中でも「居場所」を感じる瞬間があります。小学生の頃、家族と一緒に食卓を囲む時間は、テーブルには母の手作り料理が並び、私と祖父と母の三人でラジオから流れるいつものドラマを聴いていました。ドラマが終わっても、無理に何かを話す必要はなく、ただ一緒にいることが心地よかった。この瞬間、子どもながら「ここが自分の居場所だ」と思っていました。

居場所を感じる瞬間は、人によって様々です。ある人にとっては静かな読書の時間かもしれません、またある人にとっては自然の中を散歩する時間かもしれません。私にとって大切なのは、自分の感情に正直でいられる場所、そして何も無理をせず、ただ自分でいられる時間です。社会の中で、私たちは様々な役割を持ち、多くの期待に応えようと日々努力しています。しかし、その中でほんの少しでも「自分らしさ」を取り戻せる空間があることで、心が軽くなり、前向きに生きていける力が湧いてきます。

居場所をつくる

大人になってからは、職場や地域コミュニティなど、多くの場で自分の「居場所」を見つけることが難しいと感じることがあります。しかし、自分にふさわしい「居場所」は自らつくるものです。心地よい関係を築くためには、自分が率先して他者に心を開き、相手を受け入れる姿勢を持つことが重要で、小さな挨拶をしたり、相手の話に耳を傾けたりするような小さな行動を積み重なることで、少しずつ安心できる場所ができます。

「居場所を感じる瞬間」は、特別な出来事ではなく日常の中で生まれるもの。それは、他者とのつながりから生まれることもあれば、自分自身との対話の中で感じることもあります。大切なのは、その瞬間を大事にし、心に留めること。そして、その居心地の良さを、誰か他の人にも提供できる存在でありたいと願うことです。私たちが互いに居場所を提供し合える社会を作ることで、より多くの人が「ここが自分の居場所だ」と感じられる瞬間を増やしていけるように思います。     

投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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