住環境シリーズ 第3回

家族のカタチは、家のカタチに引きずられます。憧れで選んだ家に暮らしを合わせていませんか。住宅展示場のステキな家が自分の家族に合うとは限らない理由と、建て替えずに今の住まいを暮らしに合わせ直す方法をお伝えします。

住宅展示場を一巡りして、パンフレットを何冊か持って帰る。
そんな休日を過ごしたことはないでしょうか。

広いリビング、白で統一されたキッチン、天井まで届く大きな窓。帰りの車の中で、いいね、と言い合う。そのとき見ているのは、家のカタチです。そこで自分たちがどう暮らすかは、まだ誰も話していません。

リビングの床で子どもと積み木遊びをする両親

「ステキな家」は、人の数だけある

ステキな家という言葉ほど、人によって中身の違うものはありません。

白で統一されてモノの出ていない空間を、美しいと感じる人がいます。同じ部屋を、殺風景で落ち着かないと感じる人もいます。機能を絞り込んだデザインを使いやすいと言う人がいれば、味気ないと言う人もいます。

私が設計者として見てきたステキな家と、一般の方が思い浮かべるステキな家も、おそらく違います。どちらが正しいという話ではありません。住環境は、家族の数だけあります。

生活習慣が違えば、心地よい住まいも違ってくる。朝食を全員そろって食べる家と、それぞれの時間に食べる家とでは、必要なキッチンも食卓の大きさも変わります。夜に家族が集まる家と、朝しか顔を合わせない家とでは、明かりの置き方まで変わります。

ところが家を選ぶとき、私たちはまず、よその家を見ます。展示場、モデルルーム、雑誌、最近ならSNS。そこに並んでいるのは、他人の暮らしに合わせて作られたカタチです。見学のあいだ、私たちはそこに自分の家族を置いて眺めています。広いカウンターに家族が並んで座っている絵。大きなソファでくつろぐ休日の絵。ただ、その絵の中の家族は、たいてい今の自分の家族より少し仲がよく、少し時間に余裕があります。

家に合わせて住むのか、家を暮らしに合わせるのか

住宅展示場に建っている家は、不特定多数に向けて作られています。誰が見ても大きな不満の出ないように、最大公約数で設計されている。汎用的な建物、という言い方をします。一方、家族の専門性から計画する建物があります。○○さんの家族のためだけの住環境です。私が設計してきたのは、こちらでした。

2つの違いは、住み始めてしばらく経ってから出てきます。

汎用的な家では、住む人が家に合わせます。専門的な家では、家が住む人に合わせます。家に合わせる暮らしは、少しずつカタチを変えていきます。使いにくい場所は使われなくなり、置き場所のないモノが廊下や階段に出てくる。座り心地の悪い椅子には誰も座らず、家族が集まる場所がひとりでに決まっていく。そうやって、暮らしのほうが家に譲っていきます。

家具も同じです。部屋の広さに合わせてソファを選び、置いてみると通路が狭くなる。それでもソファは動かさず、人のほうが遠回りをするようになります。半年もすれば、その遠回りを不便だとも感じなくなります。

やっかいなのは、家族のカタチが変わり続けることです。子どもが大きくなって部屋にいる時間が増え、やがて家を出ていく。親が年を取り、階段が負担になる。働き方が変わって、日中も誰かが家にいるようになる。家族は10年で別のカタチになります。家のカタチは、そのままです。この差が開くほど、家族は家に合わせる度合いを増やしていきます。家族のカタチが、家のカタチに引きずられていく。

名前のない場所を、ひとつ残す

長く住む家に必要なものを2つ挙げるなら、快適性と、フレキシブル性です。

快適性は分かりやすいものです。暑さ寒さ、風通し、明るさ、音。数字で測れるものも多く、打ち合わせでもよく話題になります。見落とされるのは、もうひとつのほうです。フレキシブル性とは、家族の変化に合わせて使い方を変えられる余白のことです。

部屋に名前をつけた瞬間、その部屋の使い方はほぼ決まります。子ども部屋、書斎、寝室。名前は便利ですが、同時に用途を固定します。子どもが出ていったあとの子ども部屋が、そのまま物置になっている家はめずらしくありません。

今の家を建て替えることはできません。それでも、名前を外すことはできます。

使われていない場所は、たいてい家族の誰かが一度あきらめた場所です。家の中で、いま一番使われていない場所を、ひとつ思い浮かべてください。そして、なぜそこが使われていないのかを家族で話してみてください。暗いから。椅子が固いから。テレビの音が届かないから。理由が出てくれば、家具の向きや照明を変えるだけで使われ始める場所もあります。

家は動かせなくても、使い方は動かせます。

住まいの相談で私が最初に聞くのは、間取りの希望ではありません。これまでで居心地が良かった場所はどこですか、と聞きます。返ってくるのは、たいてい今の家の話ではありません。子どもの頃に過ごした場所や、誰かと一緒にいた時間です。広さや新しさではなく、そこに誰がいたか。その人が落ち着ける条件は、その記憶の中にそのまま残っています。

あなたにとってのステキな家は、どんな家でしょうか。一度、言葉にして書き出してみてください。

そして今の家は、その言葉に、どれくらい近いでしょうか。

◇ あわせて読みたい

・住環境シリーズ 第1回|間取りが、家族の距離を決めている

・住環境シリーズ 第2回|収納を増やしても片付かない理由

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投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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