満員電車。座席に座っている私の前に、お腹の大きな妊婦さんが立ちました。けれど、私は席を譲りません。周りのお客さんの視線が、そっと私に集まります。「健康そうなのに、席も譲らない人」。きっと、そんなふうに見えていたと思います。

「決めつけ」は、見えている一部分だけで起きる
ところが、このとき私には、立とうにも立てない事情がありました。持病のメニエルが出ていて、座っていてもぐるぐると視界が回り、立ち上がれば倒れてしまう状態だったのです。
けれど、その事情は外からは見えません。松葉杖をついていれば「怪我をしているのだな」と納得してもらえたでしょう。でも、見た目には何の異変もない私を見て、「譲れない理由があるのかもしれない」と想像してくれる人は、ほとんどいなかったでしょう。
私たちは、こんなふうに毎日たくさんの「決めつけ」をしています。思い込み、経験、先入観、固定観念。それらを物差しにして、目の前の出来事を「きっとこうだろう」と判断してしまう。でも、ここで一度立ち止まってみたいのです。私が見ているのは、その人の「全部」でしょうか。それとも、たまたま目に入った「一部分」でしょうか。
電車の席に限らず、返事が素っ気なかったあの人にも、約束を忘れていたあの人にも、私からは見えていない事情があるのかもしれません。決めつけた瞬間に、私たちはもう、それ以上その人を見ようとしなくなります。見えていないことに気づかないまま、見えている一部分だけで、その人の全体を決めてしまうのです。
ドラマは、視点を切り替える練習になる
とはいえ、「決めつけないようにしよう」と頭で思うだけでは、なかなか変わりません。長年かけて身についた見方の癖は、意識だけでほどけるものではないからです。そこで私がおすすめしたいのが、ドラマを使った小さな練習です。
物語には、必ず複数の登場人物がいます。主人公の側から観れば「ひどい仕打ちをする相手」も、その相手の側から観れば「そうせざるを得なかった事情を抱えた人」として見えてきます。同じ一つの場面を、立場を入れ替えて二度観てみる。ただそれだけで、「一つの出来事には、必ず複数の視点がある」という感覚が、少しずつ体に染み込んでいきます。
物語の中で視点を行き来することに慣れていく。その練習が、現実の人間関係にもそっと効いてきます。あの人の側から見たら、この出来事はどう映っているのだろう。そう想像できるようになる。決めつける前に、ひと呼吸おけるようになる。世の中の出来事には、必ず見えていない側面があります。それを思い出させてくれる場面に、今日あなたが観るドラマの中で、出会えるかもしれません。
投稿者プロフィール

-
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/
最新の投稿
自己成長2026年7月12日気の進まない飲み会の記憶から、自分の本音を掘り起こす方法
自己成長2026年7月5日逃げたい何かと、向き合う勇気
自己成長2026年6月29日決めつける前に、見えていない事情に気づく
自己成長2026年6月21日「欲しいもの」の奥にある、本当の気持ちに気づく


