朝の光に、ふと心がほどける瞬間があります。まるで何かを思い出すように。少し肌寒い風の中、胸の奥でゆっくりと動き出す、言葉にならなかった感情。「あのとき、なぜあんなに傷ついたのだろう」「どうして、あんなにも怒ってしまったのだろう」人とのすれ違いは、ただの出来事として通り過ぎるには、あまりにも心の中に足跡を残します。でもその痛みのそばには、「わかってほしかった」という小さな願いがあるような気がします。

「なんでわかってくれないの?」の奥にあるもの

そんな気持ちが募るとき、私たちは知らず知らずのうちに、相手に“理想”や“期待”を重ねているのかもしれません。けれど、その期待が大きすぎたとき、人との関係はそっと距離をとり始めることもあります。

たとえば、大切な記念日を忘れられていたときや、相談に乗ってほしいときに相手が忙しそうにしているとき。心にチクリと刺さる感覚は、「自分の思いが届かなかった」という落胆の裏返し。失望するのは、期待していた証でもあるのです。

だからこそ、その“あいだ”にあるものを、一度静かに見つめてみる時間も、私たちには必要なのかもしれません。

沈黙が怖くなる理由

私は一人っ子なので、一人で過ごす時間を上手に楽しめます。もちろん、友だちとの時間も大好きです。ただ、話が合う相手なら問題ありませんが、少し気を遣う相手との“話の間”が怖くなり、つい無理にでも話題を探してしゃべり続けてしまうことがあります。

そんなとき、私の中には無意識のうちに次のような期待があることに気づきます。

  • 沈黙になってはいけない
  • 相手に楽しんでもらわなければ
  • 気まずい雰囲気にしてはいけない

人間関係がギクシャクするとき、それはこうした“期待”が過剰になっている瞬間なのかもしれません。

レコードをめぐる誤解

昔、こんなことがありました。私が音楽に夢中だった頃、友人との何気ない会話で、私がずっと探していたレアなレコードを彼が持っていることがわかりました。

「えっ、それずっと欲しかったやつ!」私は思わず声を弾ませ、胸が高鳴りました。長い間探し続けてようやく見つけた宝物のように感じ、期待と喜びが一気に高まりました。

彼は「もう聴かないし、お前にあげるよ」と言ってくれました。私はとても嬉しくなり、彼の気が変わらないうちにと、その場で約束を交わし、連絡を楽しみに待っていました。しかし、何日待っても音沙汰がありません。待ちきれず私から電話をかけると、彼は少し申し訳なさそうに言いました。

「渡す前に最後に一回だけ聴いたら、やっぱり惜しくなっちゃってさ」

そのとき私は、自分でも驚くほど強い怒りと悲しみが胸の中に湧き上がりました。「約束を守らないなんて、ひどすぎる」と感じ、裏切られたような思いに駆られたのです。その一件がきっかけで、彼とはしばらく絶交状態になりました。

今振り返れば、ダビングしてもらえばよかっただけのこと。でも、当時の私はそんなことすら考えられず、ただひたすら怒りと失望感に飲み込まれていました。

期待値のズレを埋めるための小さな習慣

この出来事から学んだのは、人間関係の不満や衝突は、多くの場合“期待値のズレ”から生まれるということです。相手の言動が自分の想定と違ったとき、私たちは怒りや悲しみを感じてしまいます。

とはいえ、まったく期待を持たない人間関係は、どこか味気ないもの。だからこそ大切なのは、「期待しすぎず、しなさすぎず」、ちょうどいい距離感と、少しの“余白”を持つことなのではないでしょうか。人との関係は、ほんの少し余白があるだけで、ゆるやかに、そして優しく保たれるものなのかもしれませんね。

小さな実践

あなたも、誰かに期待していたことが思い通りにいかず、つい感情的になりそうになった経験があるのではないでしょうか? そんな時、心を穏やかに切り替えるための“ちょっとした習慣”を持っておくことが役に立ちます。

  • 「まあ、そういうこともあるよね」と、心の中で一度つぶやいてみる
  • 別の選択肢を事前に準備しておく
  • 相手の立場に立って、「惜しくなった気持ち」も理解してみる

心に少しの“余白”を持つことで、関係が穏やかに保たれることがあります。あなたも、関係を穏やかに保つための“余白”を、今日から少し意識してみてはいかがでしょうか?

投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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