現代社会では、セミナーや異業種交流会などで初対面の人と出会う機会が増えています。第一印象は数秒で決まると言われ、その後のコミュニケーションが円滑に進まないと、相手との関係がぎくしゃくすることがあります。たとえば、初対面の場で相手が冷たい態度をとった場合、「この人は私に興味がないのかもしれない」と感じてしまい、ぎくしゃくした空気が生まれることがあります。特に、相手との相性が悪いと感じると、「なぜ理解してもらえないのか」とフラストレーションが生じやすいものです。
認知フィルターとは?
こうした状況の一因として、「認知フィルター」の存在が考えられます。認知フィルターとは、私たちが情報を解釈する際に無意識に使う偏りのことです。たとえば、自分にとって都合の悪い情報を無視したり(省略/削除)、情報を自分の感情に合わせて歪めたり(歪曲)、特定の事例から全体を判断したり(一般化)することです。
私たちは日々のコミュニケーションにおいて、「省略/削除・歪曲・一般化」といったフィルターを通して情報を解釈しています。たとえば、「みんな○○さんの悪口を言っている」と聞いた場合、その「みんな」が実際には数名に過ぎないこともありますが、全員が悪口を言っているかのように感じてしまいます。このように、認知フィルターによって情報が正しく伝わらず、さらに感情が加わることで誤解が深まるのです。
私自身もこのフィルターの影響を受けた経験があります。研修中、ひとりの男性が訝しげな顔で私を見ているのに気づき、「内容が分かりにくいのではないか」と不安を感じました。そこで研修後に尋ねると、「先生をどこかで見たことがある気がして、それを思い出そうとしていただけです」とのことでした。この体験から、認知フィルターを通して相手の反応を誤解することがあると実感しました。
メタモデルの質問
こうした誤解を解消するために役立つのが「メタモデルの質問」です。たとえば、相手が「みんな」と言った場合、「その『みんな』とは具体的に誰を指しているのですか」と質問することで、相手の思い込みや誤解を明らかにすることができます。この質問方法はコーチングでよく使われますが、日常の会話にも非常に有効です。
職場で苦手な相手とのコミュニケーションも、ミスコミュニケーションを防ぐ工夫が重要です。まず、共通の話題や価値観に基づいた会話から始めることで、ぎくしゃくした雰囲気を和らげることができます。たとえば、仕事の進捗や最近のニュース、共通の趣味などを話題にすることで、相手との距離を縮めやすくなります。そして、意見が対立しそうな部分は後回しにするのが賢明です。相手の多様性を尊重し、先入観を持たずに対話を進めることで、対立を避けやすくなります。
どうしても意見の違いが最後に残った場合は、相手の価値観や主体性を尊重する姿勢が求められます。意見が異なっても、相手の立場を理解しようとする姿勢を見せることで、互いに歩み寄ることが可能です。
コミュニケーションにおいては、共通点を見つけ、相手を理解しようと努めることがミスコミュニケーションを防ぎ、対立を避けるための鍵となります。これらのスキルを日常生活や職場で活用することで、より良い人間関係を築くことができるようになります。日々のトレーニングとして次の「小さな実践」を心がけることで、ミスコミュニケーションを減らすことができます。
【小さな実践】
日常の会話で「相手が言ったことを一度自分の言葉で繰り返して確認する」ことを意識してみよう。たとえば、相手が「このプロジェクトはみんなが難しいと思っている」と言った場合、「つまり、チームの何人かが難しいと感じているということですか?」と確認する。この質問により、誤解を防ぎ、相手も自分の意図が伝わっていると感じられます。家庭でも同様に、「みんな疲れている」と言った場合、「みんなって具体的には誰?」と確認することで、理解を深めることができます。小さな確認が、大きな信頼を築く鍵になります。
投稿者プロフィール
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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
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