私は若いころから、人との関わりの中で「ちょっとした言葉」に強く反応してしまう自分がいました。例えば、職場で「そんなことも知らないの?」と笑われたとき、表面上は笑って受け流していても、心の中では悔しさや怒りでいっぱいになっていたのです。後になってもその一言が頭の中で繰り返され、気づけば自分を責めたり、相手を恨んだりしていました。

そんな経験から学んだのは、「言葉そのものよりも、それをどう受け取るか」で自分の心の状態が大きく変わるということ。だからこそ私は「やり返す」反応ではなく、「変える」反応を意識するようになりました。これは自分を守るだけでなく、人との関係性を整える大切な力になります。

些細な一言に潜む攻撃

人間関係の中で、ふとした場面に現れる軽いダメ出しや相手をバカにするような笑い。それがあからさまな暴言やパワハラでなくとも、どこか相手を見下すようなニュアンスが含まれていることがあります。

例えば

  • 「暇でいいわね」
  • 「そんなことまで気にするの?」
  • 「もっと早くできたよね」

これらの言葉の裏側には、発信側の価値観やストレス、さらには自己防衛の癖が反映されていることも多く、受取側の心には痛みが残ります。そのとき、私たちはどのように反応すればよいのでしょうか・・・。

「やり返す」ではなく、「視点を変える」

誰かの攻撃的な言葉に対して、真正面から「やり返す」のは一見スッキリする方法のように思えるかもしれません。しかし、職場や日常においてそれを繰り返していては、さらに関係性をこじらせたり、自分の心が疲弊する可能性があります。

そこで提案したいのが、「変える」という反応です。それが、リフレーミングという視点の使い方。これは相手の言葉にポジティブな意味を見出したり、受け取り方を意識的に変えたりすることで、自分の感情と関係性を守るアプローチです。

日常にあるリフレーミングの使い方

ママ友の一言に対して
「あなた、いつも暇でいいわね」→「ありがとう!日々、学びと発見に満ちています」

職場での一言に対して
「それぐらいもっと早くやれたよね?」→「そうですよね!次はもっとスピーディーに仕上げてみます!」

これらの返しは、相手に反撃するものではなく、相手の意図をすり抜けて自分軸を保つ方法。結果として、ネガティブな言語の連鎖を断ち切ることにもつながります。

「予測外の反応」が相手の攻撃性を緩める

人は、自分の言動に対して予測どおりの反応が返ってくると安心します。逆に、意外な反応をされると、脳内の予測システムが一瞬混乱し、「あれ?」と戸惑います。これが、「予測外の反応」の力。例えば、攻撃的な言葉を発することでドーパミン(快感物質)を得ていた人が、予想外に明るく返されると、期待していた快楽が得られなくなり、次第にその行為をやめていくでしょう。この反応法は、相手を操作するものではなく、自分を守るための盾です。

感情に飲まれそうなときは、「第三者になる」

もうひとつの方法として、感情に揺さぶられたときに、自分自身を「観察者」の位置に置いてみる。

例えば

  • 「この人はなぜ、こんなことを言うのだろう?」
  • 「もしかして、何かストレスを抱えているのかもしれない」
  • 「相手の価値観と自分の価値観は、まったく違うだけかもしれない」

このように考えることで、相手の言動に巻き込まれることなく、自分の心の軸を保ちやすくなります。

反撃と変化の対比

ここで少し私自身の体験を紹介します。私は少年期に3年間、先輩や一部の同級生からいじめを受け続けました。ある日、耐えきれずにその先輩に怒りで反撃しました。結果は2対1だったのであっけなく負けました。けれど不思議なことに、その日を境に、いじめはぴたりと止まりました。

一方で、社会に出てからのいじめやパワハラでは、反撃せず我慢を続けた結果、相手の言動がどんどんエスカレートしてしまい、ついには自分が職場を去ることになったこともあります。このままではいくら転職しても同じことを繰り返すばかりだと、心理学や人間関係の本を読みあさりました。

その後、新しい職場ではここで紹介した「予測外の反応」や「リフレーミング」を意識的に続けてみました。すると、驚くほどパワハラや嫌がらせが起こらなくなり、良い人間関係が自然と築かれていくようになりました。

変えることで、関係性が整う

誰でも、他人から否定的な言葉を投げかけられることがあります。でもそのときこそ、以下のような「変える力」が試されます。

  • ネガティブに対して、プラスの言葉で返す
  • 言葉の意味をポジティブに再解釈する「リフレーミング」
  • 相手の本心や背景を想像する視点の転換
  • 予測外の反応で、ネガティブサイクルを断ち切る

これらはすべて、自分を守ると同時に、相手との関係性にもポジティブな変化をもたらします。「返す」のではなく「変える」 その反応のあり方こそが、他者との関係性を調え、自分らしく生きるためのフォームになります。まずは、ちょっとした会話の中で自分の反応パターンに気づくことからはじめて関係性をこちら側から変えていってみてはどうでしょうか。

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投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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