京都の桜もすっかり葉桜となり、春の装いがまたひとつ移ろいました。 満開の桜が散り始めると、以前はどこか寂しさを感じていましたが、最近はその緑の瑞々しさに春の息吹を感じるようになりました。 パートナーの影響か、歳月を重ねる中で心の視点が少しずつ変わってきたのかもしれません。 咲いて、散って、また芽吹く——そんな桜の姿に、いつしか私は敬意を抱くようになっていました。

言葉ではない「敬意」のあり方
そんな「敬意」というテーマについて、思い出す出来事があります。 かつて深夜に放送されていた討論番組のことです。 出演者たちはそれぞれの意見を熱心に語り合っていましたが、特に印象的だったのは、誰かの発言を遮ってでも自説を押し通そうとする姿勢でした。 ある男性コメンテーターは、論破に夢中になるあまり、話の本質がずれていくこともしばしばありました。 司会者も番組を盛り上げるためか、議論を煽るような進行でした。 画面を眺めながら、「この討論って、誰のためのものなんだろう?」と感じたのを覚えています。
そんな中、ひときわ心に残ったのは、ある女性コメンテーターの姿勢でした。 相手の話にじっくり耳を傾け、穏やかに、しかし芯のある言葉で自分の考えを伝える。 反論の際も、どこか相手への敬意が感じられ、その姿勢には知性と優しさがにじみ出ていました。
その姿を見て、私は改めて気づかされました。 伝える力とは「言い負かす力」ではなく、「どんな姿勢で、どう伝えるか」なのだと。 論理の正しさよりも、誠実さや落ち着いた語り口にこそ、私たちは心を動かされるのではないでしょうか。
リスペクトとは何か
私たちは日々、さまざまな価値観と出会います。そんな中で、リスペクトとは、相手との違いを埋めようとすることではなく、その違いを「そうなんだね」と、そのまま認める姿勢のこと。共感できない意見に出会ったときほど、「それは違う」と正すより、「そういう考え方もあるんだな」と一呼吸おいて受けとめてみる。 そんな“余白”が、私たちの間に安心感をもたらします。では、私たちが日常の中でリスペクトを実践するには、どんなことができるでしょうか。 私が普段から心がけているのは、次の2つ。
■ 言葉にしない配慮もまた、リスペクト
声に出して伝えることだけがリスペクトではありません。 相手の話し方に合わせること。沈黙を受け入れること。自分のペースを押しつけないこと。 そうした“間”の中にも、「あなたを大切に思っていますよ」というメッセージを込めることができます。
■ 相手を信じるという前提
リスペクトの本質は、「相手の中にすでに大切な何かがある」と信じること。 この前提に立てるだけで、自然と関わり方や言葉選びが変わっていきます。
リスペクトは、特別な技術ではありません。 日々の中で、少し視点を変えること。相手の立場に一歩寄り添うこと。 その小さな意識の積み重ねが、心地よい対話と関係性を育てる土台になります。誰かと心を通わせたいと思った時、その第一歩は、相手を変えようとするのではなく、違いをそのまま受けとめる姿勢かもしれません。
小さな実践
「相手の話を“返す”のではなく、“受けとめる”ことを意識する」
誰かが悩みを打ち明けてくれた際、「私もそうだったよ」と、自分の話にすり替えてしまいそうになること、ありませんか? その瞬間に一呼吸おいて、「そうだったんだね」「それは大変だったね」と、その人の気持ちにただ寄り添ってみる。返事を急がず、ただうなずくだけでも、相手への尊重は伝わります。 この一呼吸が、安心感のある対話の始まりとなり、リスペクトの輪を広げる一歩になる。
編集後記
先日、お話しする機会があったシニア世代の男性のことが、今も心に残っています。 彼は定年退職後、地元の子ども食堂でボランティアをしておられました。
「若いスタッフのやり方には、なかなかついていけなくてね」と苦笑いしつつも、話を聴いていくと、そこには“世代を超えたリスペクト”がありました。「自分のやり方にこだわるより、若い人のやろうとしていることを一度受け入れてみようと思ったんです。そうしたら、自分の中にも新しい考えが芽生えてきてね」 彼はそう静かに語ってくれました。
その姿勢に、静かな感動を覚えました。 リスペクトとは、相手に同調したり、我慢したりすることではなく、 「あなたという存在を、まるごと認めていますよ」というまなざし。 そのやさしさが、世代や立場を超えた信頼関係の礎となるのだと、改めて教えられた時間でした。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
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