キッチンから聞こえてくるジュージューという音。香ばしい匂いが漂い、テーブルに運ばれてくる分厚いハンバーグ。一口食べると、熱さとともに肉汁が口いっぱいに広がる。

この場面を思い浮かべたとき、多くの人がまるで実際に食べているかのような感覚を持ったのではないでしょうか。人は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という五感を通して世界を認識しています。これは言語が生まれる以前から備わっている、生存のための本能的な仕組みです。そして、この五感による体験は、記憶や感情と強く結びついています。つまり人は、「正しいから行動する」のではなく、「感じたから動く」生き物です。理屈で理解しているつもりでも、最終的な判断をしているのは、常に感情です。

このことは、日常のさまざまな場面に表れています。本当は断りたいのに、つい引き受けてしまう。言いたいことがあるのに、相手の反応が気になって飲み込んでしまう。チャンスが目の前にあるのに、一歩踏み出すことができない。こうした行動の裏には、「嫌われたくない」「失敗したくない」「傷つきたくない」といった感情が存在しています。そしてその感情は、過去の体験によってつくられています。

無意識に刻まれる「恐怖の記憶」

私自身、子どもの頃に犬に噛まれた経験があります。それ以来、尻尾を下げて唸っている犬を見ると、頭で考える前に体が反応し、近づくことができません。また、幼い頃、岩山に登り途中で身動きが取れなくなり、強い恐怖を感じた体験があります。その時の感覚は今でも残っており、高い場所に対して無意識に警戒してしまいます。これらは単なる思い出ではありません。強い感情とともに記憶された体験は、無意識の中に深く刻まれ、似た状況に直面したときに自動的に反応を引き起こします。

人の無意識の奥にあるのは、「安全でいたい」「生き延びたい」という生存欲求です。恐怖や不安は、この欲求を満たすために働く大切な感情です。しかしそれが強く働きすぎると、本来選べたはずの選択肢を狭めてしまうことがあります。問題は、その反応の多くが「無意識」で起きているということ。自分では冷静に判断しているつもりでも、実は過去の体験に引っ張られて選択していることが少なくありません。

成功と失敗を分けるのは「感情との向き合い方」

人生の中で大きな選択をするとき、人は必ず感情の揺れを感じます。新しいことに挑戦しようとするときほど、ワクワク感と同時に不安や恐れが入り混じります。このとき、多くの人はポジティブなイメージだけを見ようとし、不安や恐れには蓋をしようとします。しかし、それでは本質的な解決にはなりません。むしろ大切なのは、「なぜこの感情が出てきているのか」を知ることです。この不安はどこから来ているのか。いつから自分の中にあるのか。どんな体験が、この感情を生み出したのか。そこに目を向けることで、はじめて感情に振り回されるのではなく、感情を理解した上で選択することができるようになります。

成功する人と失敗する人の違いは、能力や環境の差だけではありません。同じ状況でも、不安に飲み込まれて動けなくなる人もいれば、不安を感じながらも一歩を踏み出す人もいる。その違いは、「どんな感情を持ったか」ではなく、「その感情とどう向き合ったか」にあります。だから、成功と失敗は紙一重なんです。

最後に、ひとつだけ自分に問いを投げかけてみてください。

今、自分はどんな感情でこの選択をしようとしているのか。そして、その感情はいつから自分の中にあるのか。この問いに向き合うことができたとき、あなたの選択は無意識に流されるものではなく、自分で選び取るものへと変わっていきます。自分を知ること。それは、自分らしい人生を歩むための出発点です。

ほんの少し立ち止まり、自分の内側に目を向ける。その一歩が、これからの人生を大きく変えていきます。

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投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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