先日、あるビジネスの場でこんな話になりました。「お客さんが来なくなったのは、あの対応が原因だったのかもしれない」と、担当者が深刻な顔で話していたのです。その言葉を聞きながら、私はふと、若い頃の自分の失敗を思い出していました。

コンビニのアルバイト店長をしていた頃のことです。

その店には、通路に座り込んで長時間本を読む学生が多く、正直、手を焼いていました。本はボロボロになるし、通路は塞がれるし、見ていて気持ちのいいものではありませんでした。そこで私は思い切った決断しました。

今は普通になっていますが、週刊誌や漫画に輪ゴムをかけて、立ち読みできないようにしたのです。ところがその日から、たしかに問題の学生たちは来なくなりました。しかし同時に、売上が驚くほど落ち込みました。

立ち読みが果たしていた役割

なぜそれほど売上が下がったのか。当時の私には、すぐには理解できませんでした。

振り返ってみると、店内に人がいるということ自体に意味があったのだと思います。通りから見たとき、誰もいないコンビニと、何人かの人が棚を眺めているコンビニでは、受ける印象がまったく違います。人は本能的に、人がいる場所に安心感を覚えます。昔のコンビニが窓側に本のコーナーを置いていたのも、きっとその心理を利用していたからではないでしょうか。

また、立ち読みをしていたお客さんたちは、本だけ見てすぐに帰っていたわけではありませんでした。「読ませてもらったかわりに何か買っていこう」という気持ちが、ついで買いにつながっていたのです。そうした消費者心理が、売上を支えていた部分は小さくなかったと、後になって気づきました。

一度、離れたリピーターはなかなか戻ってきてくれません。そのことを身をもって学んだ出来事でした。

「正しい」だけでは見えないものがある

立ち読みは本来、してはいけないことです。それはよく分かっています。ボロボロになった本を誰も買いたくないのは当然ですし、店側が対応したこと自体は間違いではありませんでした。ただ、この体験が私に教えてくれたのは、「正しいかどうか」という視点だけで判断すると、見えなくなるものがあるということ。

一つの出来事には、必ず複数の見方があります。どこにフォーカスするかによって、同じ状況がまったく違って見えてきます。あの頃の私は「立ち読みは迷惑」という視点だけに集中していて、「立ち読みが生み出していた価値」には気づけていませんでした。

「違う視点から見るとどうだろう」という問い

何か問題が起きたとき、私たちはつい「どうすれば解決できるか」に意識が向きます。それは大切なことですが、その前にもう一歩立ち止まって、こう問いかけてみることをお勧めします。

「違う視点から見ると、これはどう見えるだろうか」

状況は変わらなくても、視点が変わると解釈が変わります。解釈が変わると、選択肢が増えます。 そして選択肢が増えることで、より本質に近い判断ができるようになります。

この思考の習慣は、ビジネスの場だけでなく、日常の人間関係にも活きてきます。「なぜあの人はこう言ったのだろう」「相手の立場から見ると、どう感じているのだろう」。そうした問いを持てるかどうかが、関係性の質を変えていきます。問題が起きたとき、すぐに答えを出そうとしなくていいのです。まず視点を動かしてみる。その小さな習慣が、思わぬところで新しい気づきをもたらしてくれます。

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投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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