「どうしてこの人、話が通じないのだろう?」そんなふうに感じたことはありませんか?仕事でも、家族でも、友人でも。言葉は通じているのに、なぜかすれ違ってしまう——その原因は、伝え方ではなく見ている視点の違いにあります。
例えば、同じ出来事を見ていても、ある人は全体像を捉えて話し、別の人は細かな部分に意識が向いている。その「焦点の違い」が、会話の流れや受け取り方を大きく変えています。
今回は、そんな視点のズレに気づくヒントとして、「詳細型」と「全体型」という考え方を紹介しながら、お互いの違いを認め合い、心地よくやりとりするための小さな工夫をお伝えします。

私たちは日々、驚くほど多くの判断や解釈を繰り返しながら暮らしています。心理学の研究によれば、人は一日に35,000回以上の意思決定をしているとも言われています。
朝、「コーヒーを飲もうか、やめておこうか」
昼、「今日は◯◯を食べようか、別のものにしようか」
メールを見て、「今すぐ返すべきか、あとにしようか」
誰かに声をかけるかどうかを迷う場面など、こうした日常の場面で、私たちは無意識に“見る・選ぶ・判断する”というプロセスを踏んでいます。その判断は単なる情報処理ではなく、どの視点から見ているかによって、大きく左右されています。
視点の“クセ”に気づいていますか?
私自身、何かに意識が向くと一気に集中してしまう傾向があります。一つの情報や出来事にズームインし、他の要素が目に入らなくなる。まるで望遠鏡で一点だけを覗き込み、それが全体だと思い込んでしまうような状態。建築デザインの仕事を長く続けてきた中で、図面や構造の細部にまで目を配ることには慣れています。しかし、日常の会話や人間関係の中では、この“ズーム型の視点”が裏目に出ることがあります。
相手の言葉の一部だけを捉えて「こういう意味だ」と早合点し、あとから「全体を聞いていなかった」と気づく……そんなことも一度や二度ではありません。このように私たちには、それぞれの見方のクセがあり、物事の捉え方にも大きく分けて二つの傾向があります。それが「詳細型」と「全体型」です。
■ 詳細型の特徴
- 一点に意識を集中させ、深く掘り下げる
- 「具体的には」「正確には」という言葉をよく使う
- 自分の中では話がつながっていても、前提や主語が抜けていることが多い
- 話すときは、細部にこだわり、長くなりがち
■ 全体型の特徴
- まず全体像をざっくり把握してから話を進める
- 抽象的なままでもイメージで理解できる
- 細かい説明が続くと疲れやすい
- 要点をすばやくつかんで進むことを好む
もちろん、すべての人が完全にどちらかに当てはまるわけではありません。多くの人が、状況に応じて両方の視点を使い分けています。ただ、自分や相手の傾向を把握しておくことは、コミュニケーションの質を大きく変える鍵になります。
すれ違いの正体は、視点のズレ
詳細型の人が丁寧に話そうとして長く説明していると、全体型の人は「結論は何?」と聞くのが苦痛になってしまいます。逆に、全体型の人が要点だけをさっと話すと、詳細型の人は「その理由は?根拠は?」と不安になってしまいます。こうしたやりとりのズレは、しばしば「相性の悪さ」や「価値観の違い」と受け取られます。けれど、実際にはただ「見ている場所が違う」だけのことも多いのです。
視点を調整するためのコミュニケーション
視点のズレをすり合わせるには、ちょっとした工夫が有効です。
■ 詳細型の人と話すときの工夫
- 話が長くなりすぎないように、要点を確認しながら進める
- 「つまり、どういうこと?」と整理の質問をする
- 抜けている背景や前提をやさしく補ってあげる
■ 全体型の人と話すときの工夫
- まず一言で結論や要点を伝える
- その後に、必要に応じて詳細を加える
- 話のテンポや情報量を、相手の反応に合わせて調整する
この“視点の切り替え”を少し意識するだけで、会話のズレや誤解が大きく減り、信頼関係も深まりやすくなります。
「違い」を楽しめる余裕を持つ
大切なのは、「自分と相手は同じ景色を見ているとは限らない」という前提を持つことです。「なんで話がかみ合わないのだろう」と思ったとき、「この人は、どこからこの出来事を見ているのだろう?」と考えてみる。その一歩が、すれ違いをほどき、違いそのものを楽しめる余裕へとつながるはずです。
【 小さな実践】
「今すぐできる“視点リセット”ワーク」人との会話や、ちょっとしたモヤモヤが生まれた時、次の2ステップを試してみる。
- 「今、自分が気になっていることを紙やスマホに一言書き出す」 (例:相手の反応が冷たい、返事が遅い、など)
- 「相手の立場だったら何を見ているかを想像して書き出す」 (例:相手が忙しい、全体を考えて答えを保留している、など)
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/
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