人間関係の行き違いは、意見や性格の違いよりも「見えている景色のズレ」から生まれます。相手と同じ景色を観るためには、イメージを共有し、すり合わせる時間が欠かせません。このコラムでは、私がステンドグラス制作やコーチングの現場で実践してきた、信頼を築くための具体的な方法と視点をお伝えします。
観える景色をすり合わせると人間関係が変わる
私がステンドグラス作家として最も忙しく活動していた頃、建築設計の仕事も並行して手がけていました。常に制作や打ち合わせに追われる日々でしたが、不思議なことにお客様からのクレームはほとんどありませんでした。理由は、「自分が理想とするお客様の仕事しかお受けしない」と決めていたからです。
例えば、納期を極端に急ぐ依頼はお断りしていました。中でも特に注意していたのが、参考写真を持ってこられて「こんな感じでお願いします」とおっしゃるお客様。一見やりやすそうに思えますが、実はこれが一番コワイのです。
写真や参考資料に潜む落とし穴
なぜ危険かというと、写真から受け取るイメージに大きな差があるからです。私は何十年もステンドグラスに携わってきた経験から、写真を見るだけで色のニュアンスや光の通し方、素材感まで細かくイメージできます。しかし、お客様が見ているのは色合いや大まかなデザインのみの場合が多いのです。この差はそのまま「完成形のズレ」につながります。
このギャップを埋めるためには、短期間では到底足りません。通常なら1週間で仕上がる作品も、1か月ほどかけて何度も打ち合わせを重ねます。お客様の頭の中にある景色と私の中のイメージを少しずつ近づけていく作業は、作品づくりにおける土台そのものです。
光と色で完成形を共有するための工夫
ステンドグラスは、自然光との共演があってこそ真価を発揮します。朝のやわらかな光では優しい色調が現れ、夕方の斜めからの光では深みのある影が室内に落ちます。壁や床は舞台となり、そこに色とりどりの役者たちが現れる。そんな情景をお客様自身が思い描けたとき、作品はすでに半分完成しています。
この「想像してもらう時間」こそが、期待と信頼を育てる時間。「こんな感じ」以上のワクワク感を共有してもらうには、丁寧な対話が欠かせません。そして、この構造は芸術や建築だけではなく、人間関係全般にもあてはまります。
コーチングで行う価値観と方向性のすり合わせ
現在の私の生業であるコーチングでも、最初に行うオリエンテーションが非常に大切で、クライアントと同じ景色を観られるようにするために、まずは次のような要素のすり合わせをします。
- クライアントの価値観や判断基準
- これまでの経験や背景
- 大切にしている優先順位
- 自分自身をどう認識しているか(自己認知)
これらが揃っていないと、同じ目標を語っているつもりでも、歩く方向やスピードがずれてしまいます。逆に、最初にしっかり共有できれば、その後の会話や行動の選択がスムーズになり、信頼感も深まります。
焦点の違いが生む誤解とその解消法
人は同じ場面にいても、注目しているポイントや優先順位が異なります。この「焦点の違い」が、気づかないうちに誤解やすれ違いを生む原因になることがあります。例えば、職場で新しい企画を進めるとき
- ある人は「期限内に終わらせること」
- 別の人は「品質や完成度」
- さらに別の人は「チームの雰囲気や士気」に意識を向けているかもしれません。
家庭も同じで、週末の予定を決めるとき
- 体を休めたい人
- 家族での時間を優先したい人
- 趣味や友人との予定を優先したい人と、それぞれに大切にしている視点があります。
この違いは、誰かが正しい・間違っているという話ではなく、単に「見ている景色が違う」というだけのこと。だからこそ、「あなたは何を一番大切にしている?」と確認する習慣が、関係をスムーズにする第一歩になります。
すぐに始められる!関係をスムーズにする4つのポイント
大切な人と大事な話し合いをすることがあったら、次のことを意識しておいて下さい。
- 相手の目的や優先順位
- 好みやこだわり
- 情報の受け取り方・伝え方の癖
- 事前に共有しておきたい条件や制約
これらを共有しておくことで、相手の行動や発言の背景が理解しやすくなります。そして、「同じ景色を観ながら歩く感覚」が生まれます。
人間関係の摩擦は、相手の価値観や見ている景色を知らないまま進んでしまうことから始まります。だからこそ、すり合わせの時間は「余計な回り道」ではなく「目的地に近づく最短ルート」です。作品づくりも、人生づくりも、まずは景色を共有することから。そこに信頼と安心感が生まれ、関係は格段に豊かになるはずです。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/
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