「やる気が出たら、やろう」。 そう思っているうちに、一日が終わってしまう。そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
私自身、毎年のように「行動力を上げたい」と願ってきました。願ってしまうということは、裏を返せば、それが苦手だということ。仕事はいつも納期ぎりぎりまで手をつけず、後になって自分を追い込む。それでも締め切りだけは守ってきた、いわゆる先延ばしタイプ。
プライベートとなると、なおさらでした。目に見えるところだけ整っていればいい、細かなほこりは見ないことにする。そんなふうに、ずいぶん長いあいだ自分をごまかしてきたように思います。それでも、そんな自分を少しずつ動かせるようになった、ささやかなきっかけがありました。

やる気は、待っていても来ない
掃除をすればすっきりする。頭ではわかっています。それでも、いざとなると気が乗らない。そんなとき浮かんでくるのは、決まって「忙しいから」「体調がいまひとつだから」という、やらない理由ばかり。動けない自分を、意志が弱いからだと責めてしまう。私も長いあいだ、そう思ってきました。けれど、どうやらそうとも言い切れないようです。
やる気というものは、待っていれば自然に湧いてくる――そう思い込んでいました。けれど実際は、少し違います。順番が、逆で、やる気が出るから動くのではなく、動いたから、やる気が後からついてくる。これが私の体験からでた答え。
始めてしまえば、心が後からついてくる
出張のとき以外、私は毎朝、軽いヨガを続けています。もう何年になるでしょうか。毎朝のように「今日は休もう」という声が聞こえてきますが、その都度「10分だけ」と決めて、とりあえずマットに立つ。すると不思議なもので、気が乗らないまま始めても、体が温まるころには、最後までやり終えている。
これを「作業興奮」と呼ぶのだそうです。やる気がないまま、ほんの少し手をつける。最初の取っ掛かりさえ越えてしまえば、脳が動きはじめ、モチベーションが後から追いついてくる。おもしろいのは、「全部やろう」と思うと腰が重いのに、「10分だけ」と決めるとふっと動けること。ハードルを思いきり下げてしまえば、最初のひと足は、案外軽くなります。
以前、部屋の片付けと断捨離に取り組んでいた時期がありました。その片付けは、ひとりではありませんでした。価値観のずいぶん違うパートナーに、手伝ってもらっていたのです。「想い出があるから」「いつか使うかもしれないから」――私のそんな甘い理由づけを、パートナーはためらいなく切り捨てていく。最初はたじろぎましたが、おかげで手が止まらずにすんだ、という面もありました。
気の重かったその作業も、少しずつ手を動かすうちに、いつのまにか楽しめるようになっていました。一度すっきりした心地よさを知ってしまうと、今度は散らかった状態が落ち着かなくなる。人は、否が応でも環境に適応していくものです。頑張って意志を保ち続けるより、いちど整った環境のほうが、私を自然と動かしてくれる。意志に頼りすぎないというのも、ひとつの知恵なのかもしれません。
ただ、一気には変えない
ここで、ひとつだけ気をつけたいことがあります。
作業興奮で勢いがつくと、つい一気に片付けてしまいたくなる。けれど、そこをぐっとこらえて、少しずつ進めるのがコツです。
やり過ぎてしまうと、そのぶり返しで疲れ果て、次に取りかかる気力まで消えてしまう。一日でやり切ろうと意気込んだ翌日、ぐったりして何も手につかなくなる。あの感覚を、私も何度か味わってきました。大きく変えた分だけ、揺り戻しも大きくなる。これは、片付けにかぎった話ではありません。
脳は、大きな変化を恐れるのだそうです。だからこそ、小さな変化を少しずつ起こして、脳を上手に騙していく。小さく区切って手をつけ、ひとつ終えるたびに、ささやかな達成感が残る。その小さな達成感が、次のひと手の燃料になる。やみくもに頑張るのではなく、自分にとって効果の大きい場所をひとつだけ選び、そこを小さく刻んで手をつける。それくらいが、ちょうどいいのだと思います。効果の大きい場所と言っても、たいそうな場所でなくて構いません。いつも目に入って、気になっているのに手をつけられずにいるところで十分です。
イヤイヤ始めた断捨離が、いつのまにか少しだけ楽しくなっていたように、変化は、最初の小さなひと手から静かに始まります。あなたがいま、「やる気が出ないから」と後回しにしていることは、何でしょうか。その一番気になるところに、ほんの少し手をつけるとしたら――どこから始めるでしょうか。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
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