人との関係に悩んだとき、「どうしてこんなに話が噛み合わないんだろう」と胸の奥がざわざわすることがあります。相手が悪いわけでも、自分が間違っているわけでもない。ただ、どこかの噛み合わせが少しずれている。そんな微妙な距離の取り方に、私自身が大きく悩んだ出来事がありました。
認知症が進んできたお袋が、まだ実家でひとり暮らしをしていた頃のことです。
ケアマネジャーを交えて、これからの生活について話し合う場がありました。私には息子としてお袋を大切にしたい思いがある。ケアマネジャーには、専門家としての正しさがある。どちらも間違っていないけど、噛み合わない。
こちらの言葉が相手の胸に届く前に、専門的な理屈が遮ってしまう感覚。話し合いは進んでいるのに、心だけがすれ違っていくような時間でした。そのとき、ふと思ったのです。「この人はどんな基準で物事を見ているのだろう」と。

外の声、内の声
人は誰しも、自分なりのものさしを持って生きています。その中でも、人間関係を考える上で役に立つものさしが、外的基準と内的基準という考え方です。ケアマネジャーとの会話を通して、私は「この人は内的基準が強いタイプだ」と気づきました。外からの意見や助言はあくまで情報であり、最終的に自分の中で納得できるかどうかがすべて。
だから他者の強い言い方や押しつけを敏感に感じ取り、反発にも似た抵抗が生まれる。逆に外的基準が強い人は、他者の経験や周りの状況を手がかりにしながら判断します。周りの声を集め、空気を読み、関係性に合わせて行動を選んでいく。どちらが良い悪いではなく、ただものさしが違うというだけの話です。
変わりながら生きる
思い返せば、ひとりの人生の中でも、この基準は揺れ動いています。新入社員の頃は外的基準が強く、「とにかく教えてもらった通りにやろう」「周りに迷惑をかけないように」そんな思いで、組織の空気の中に自分を馴染ませていきます。
ところが、仕事に慣れ、社風にも馴染み、人間関係の流れをつかんでくると「この人とは距離を置いておこう」「この上司とはうまくやれるだろう」ついには、外ではなく内の自分の感覚が判断基準になる。やがて人は環境や時間の流れの中で、外的基準と内的基準の間をゆらゆら揺れながら生きているので、相手の基準を一度で決めつけないことです。
距離感が見えるようになると
ケアマネジャーとの話し合いの後、「この人は内的基準が強いからこそ、専門家としての軸を曲げないのだ」そう思った瞬間、胸にあったわだかまりが少しだけほどけました。相手を変えることはできませんが、相手の基準を理解するだけで、距離の取り方が確実に変わります。
私たちはつい、「もっと柔軟なスタンスで聞いてほしい」「こちらの思いを汲んでほしい」と望んでしまいます。でも相手には相手の、育ってきた背景や仕事の誇りや、その人なりの価値基準があります。そこに触れた瞬間に関係性が動き始め、距離が縮まることもあるし、逆に少し距離を置くという選択になることもある。どちらにしても、ものさしを知るという行為は、心の摩擦を減らし、自分を守る力になります。
小さな実践
誰かと会話をするとき、ほんの少しだけこう意識してみてください。
「この人はいま、外の声を頼りにしているのか。それとも、自分の内側の声を大切にしているのか。」
相手がどちらのものさしを手にしているのかが見えてくると、言葉の届け方も、距離の取り方も、自然に変わっていきます。人間関係は、性格だけでは説明できない“基準”でできています。そんな小さな気づきが、あなたの毎日に少しの優しさを運んでくれるはずです。
投稿者プロフィール

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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
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