今回は「住環境ライフコンディショニングコーチ」という専門スキルが生まれた時のエピソードをお伝えします。
私は重度の心筋梗塞で倒れたのをきっかけに、生業としていた建築士事務所を廃業しました。しかし、あるエピソードがあって、また建築に携わるようになりました。
それは数年前、大手会社のリフォーム事業部の系列会社に、企業研修の提案に行った時のことです。しばらくしてその会社から「研修の件ではないが別件で相談にのってほしい」と連絡が入りました。
さっそく、担当者とお会いしたところ、突然、「リフォームの打合せに同行してほしい」と言うのです。詳しく事情を聴いてみると、お客様のリフォームの計画に問題が生じているとのこと。
当初の工事予算は1,000万円だったが、打合せを重ねるうちに1,500万円まで膨れ上がってしまい、お客様も担当の営業も、前にも後ろにも進めない状況になっているとのことでした。
打合せに同行
何故、このような話が突然に湧き出たかをお話すると、私が企業研修の提案に行った際、余談で次のような話をしました。
「家の建て替えはもちろん、中古住宅やマンションを購入するお客様から相談があった際、お客様の潜在的な要求を引き出すコーチングの手法を取り入れた結果、お客様が本当に望んでいることや家族のカタチが明確になり、家族が本当に住みたい理想の家が具体的にイメージできるようになったと喜んでもらっている」
この話を、担当者が思い出し、打合せに同行してもらうことを考えたそうです。これもご縁と考えて、営業の方に同行してお客様宅に伺いました。お客様のご家族は、ご夫婦、おばあちゃん、大学一回生の娘さんと高校二年の息子さんの5人家族。打合せ当日は家族全員で我々を待っていました。私は、同行に至る経緯と自己紹介をすませ、お客様の現状の不安と、どのような住まいになったら満足するかを、ご家族全員に聴いてみました。
家族全員の不一致
ところが、ご家族全員から聴いているうちに、現在の住まいに対してそれぞれが違う不満や不安を持ち、リフォームが完成した住まいのイメージも違うのです。このような状態でよく計画を進めていけたものだと驚きました。後で営業の方に聞くと、いつも夫婦だけで家族全員で打合せをしたことは一度もなかったそうです。
打合せの際、お子さんたちの歯切れが悪いのが気になり、こんな質問を全員にしてみました。「もし、何の制約もなかったとしたら、どのような家に住みたいですか?」 すると驚いたことに家族全員が住みたい理想の家は、ほぼ同じでした。
あれだけそれぞれ自分勝手な意見を言っていたのに「制約がなかったら」という言葉を入れただけで、ほぼ合致したのは、きっと家族の間で話していないことがあると感じました。
特に何か歯切れが悪かったお子さんたちの気持ちを聴いてみたくなりました。話を進めていくうちに、歯切れが悪い理由が解りました。実は、お子さんたちは学校を卒業したら家を出たいと思っていたのです。
リフォームの話しが進むにつれ、よけい両親には言えなくなったそうです。 ご両親の想いだけが先行する中で、ギリギリになって明らかになった、お子さんたちの本当の気持ち。
こうなると、「家族全員が永く住める家」の計画は根底から見直す必要があります。その時は、ご家族全員でもう一度話し合ってもらうようにお願いして帰りました。
その後・・・
大幅にリフォーム工事を縮小し、約700万の予算で工事が着工されたそうです。後日、担当者が契約できた経緯を詳しく話してくれました。実は、リフォームを計画してから、家族が些細なことで喧嘩することが多くなったのでリフォームを中止するつもりだったそうですが、今回、家族で膝を突き合わせて話す機会が持てたことで、将来を見据えた住まいのリフォーム計画ができたことをたいへん喜んでおられました。と聞いて安心しました。
お客様がいない打合せ
お客様の潜在的な想いや観えていない制約が、何も観えていない状態で打合せをすれば、お客様から湧き出てくるのは不安だけです。私たちは、それぞれ違う人生観や価値基準を持っています。
当事者になると、本来、観えることがまったく観えない状態に陥ります。時には仕切り直す勇気や、モノ事を俯瞰してみることは、人と人との関係性において最も大切なことではないでしょうか。
この件があって、お客様が心から求めている「理想の住まい」を創るには、お客様家族の生活習慣のすり合わせをし、最低でも10年先のライフスタイルを見通した住環境と、子どもの成長と共に変化する家族の関係性を整えるところまでフォローアップする専門家が必要と考えました。
それが「住環境ライフコンディショニングコーチ」です。建築専門家とお客様を「良き個人は良き家庭をつくり、良き家庭は良き社会を創る」という共通理念で繋ぐことができれば、今回のような事例は少なくなるような気がします。
投稿者プロフィール
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武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。
マイベストプロ
https://mbp-japan.com/kyoto/hirokobashi/
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