2月3日に当協会メンバーの誘いで、淡路島の古民家で「野菜スープ」を中心に心と身体の健康のことを多くの方に伝えているオーナーのセカンドハウスに訪問したお話をしました。今回はオーナーがこだわった古民家のことを少しお伝えします。こちらの古民家は築100年とは思えないとてもしっかりした建物だったそうです。

オーナーがこの建物を初めて見た際、古い建具やガラスがそのまま残っており、畳にも新聞紙を敷いて湿気とホコリから保護していたそうです。この建物を残してくれるのなら売っても良いという元オーナーの条件はもちろんのこと、建物の細部にわたって一目惚れしたとのことです。

古民家の定義は大正時代以前に伝統構法(軸組工法)で建てられたものと言われています。私が診る限り構造体はしっかりしており、梁には手斧(ちょうな)のあとが残り棟梁の息遣いが聞こえてきそうなくらいどっしりした梁で小屋組みを支えていました。ちなみにこの梁もオーナーが磨いたそうです。私も十代で大工の棟梁の弟子だった当時、米ぬかを入れた布袋で天井の無垢の杉板を1日中磨かされたました(笑)

古民家の構造体にはケヤキやクリ、サクラ、ヒノキなど目が詰み堅く、シロアリに食べられにくい木材が使われているので100年以上の耐久性があります。今の住宅は耐震や高気密高断熱に力を入れていますが、日本の風土に合っていないのでとても100年はきついでしょうね。古民家は構造材同士をつなぐ仕口は長ほぞ、鼻栓・込栓のくさびを使っているので耐震ではなく粘りがある免震構造になっています。

これは天井裏ですが、この竿縁天井は無垢の天井板を使用しており、その固定方法も「稲子(いなご)」という金属のくさびを差しこんで押えるというちょっと手間のかかる仕事をしています。このいなごにもいろいろと種類があり、本いなご、付けいなご、竹いなごなど、これを見ても立派な古民家のお手本のような天井裏です。

 

ここからオーナーのこだわりです。この造付けの本棚の右端を見て下さい。隠し扉になっていてこの先にはお手洗いや浴室までの長い廊下があります。本棚扉の厚みは250ミリ以上あると思いますが、これを開閉するには経験と知識がないと作れません。私も設計したことがありますがポイントは円弧の中心と扉の厚み。重量があるので今の若い大工さんには容易ではない仕事です。こちらを作った大工さんが宮大工と聞いて納得しました。

 

この本棚扉を開けて廊下を通っていくと、知人に作ってもらった陶器の洗面があり、組子建具のお手洗いがあります。洗面の高さにも気を使っておられるようでした。

 

紹介していると切りがないのですが、私が面白いと思ったのは「神は細部に宿る」と言うように、玄関の続き間の丸窓障子を開けると玄関の和箪笥の上に置いている一輪挿しが続き間から見えたことです。これはオーナーのこだわりだそうです。

 

時間がなかったので特に気がついた点のみを紹介させて頂きました。こちらの古民家では、畑作業を通じた学びと共生の場とする研修の一環として宿泊し、自然とのつながりを深めながら日常を忘れさせる体験を楽しむことも可能だそうです。

今回、訪問した築100年の古民家を再生したオーナーの行動には、私の理念でもある「良き個人は良き家庭をつくり、良き家庭は良き社会を創る」に深く通じるものがあります。オーナーが職人さんと共に生活し、古民家の再生に自ら加わったことは、単なる建物の修復を超えた、人と人の絆を育む行動であり、その精神はまさに私たちの協会が大切にしているコミュニティ意識と相互支援の精神と一致します。

オーナー行動は、「良き個人」が積極的にプロのコミュニティに関与し、自らの手で「良き家庭」の場を築き上げるという実践の見本です。古民家という「家庭」は、過去からの歴史や文化を受け継ぎ、それを現代に生きる私たちと未来へとつなげる役割を担っています。このように、個人が自らの行動で周囲の環境を良くしていくことが、結果として「良き社会」の構築につながります。

オーナーの取り組みは、協会の理念と共鳴し、私たちの活動にも新たなインスピレーションを与えてくれました。その考え方を受け、私たちは「心ホッとコミュ」を通じて、人々が自らの経験やスキルを共有し、支え合う場を提供することで、より健康的でつながりのある社会の実現を目指しています。

オーナーの古民家再生プロジェクトは、過去と未来、個人とコミュニティが融合する素晴らしい事例であり「良き個人が良き家庭をつくり、良き家庭が良き社会を創る」という理念の具体的な実現方法の一つと言えるかもしれませんね。

 

投稿者プロフィール

小橋広市
小橋広市
武蔵野美術大学卒業後、東京の建築デザイン事務所に就職。その後、京都で建築士事務所を設立。人の共通心理をとりいれた店舗や狭小住宅の企画設計を生業としていたが、59歳で心筋の半分以上が壊死する重度の心筋梗塞で倒れ、事務所を廃業。紆余曲折を経て住環境ライフコンディショニングコーチとしてリスタート。近年では、企業研修において、それぞれの組織に応じた内容にカスタマイズし提供している。

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